薬を使わず、慢性痛に対処するには?

(オーストラリア発)
約90%の現代人は、人生のどこかで筋骨格系の痛みを経験します。統計によると、オーストラリア人の成人の5人に1人はセルフケアでは対処しきれない慢性痛を数ヶ月以内に経験するという計算になります。

広く処方される オピオイド鎮痛剤 (イメージ)
目次

慢性痛が命に関わる?

筋骨格系の症状は辛いものの、慢性痛は命に関わることは稀だというのが、今まで多くの医療従事者の常識でした。

ところが、シドニー大学による新しい研究はこの概念に異議を呈し、痛みに対する私たちの対応が自身に害を及ぼしている可能性があると示唆しています。

EClinicalMedicineが発表した研究では、背中、首や肩、股関節などの痛み、変形性関節症、線維筋痛症など、慢性的な筋骨格痛のある約20万人の人々について調査しました。研究によると、痛みのない人と比較して、筋骨格系の痛みがある人は早期に死亡するリスクがはるかに高いことがわかりました。そして、体の痛みの部位が多いほど、リスクが高くなります。4部位(例えば、肩、首、背中、膝)に痛みがある人では、リスクは46%高くなりました。

研究者たちは、生活スタイルや行動パターンがリスク軽減に影響を与える可能性がどれほどあるかを理解したいと考えました。具体的には、喫煙をやめ、アルコール摂取を控えめにし、定期的なオピオイド鎮痛剤の使用を避けることなどで適切な身体活動レベルを調整することによって、リスクが減少することを発見しました。

「筋骨格系の慢性痛と早期死亡率の増加との関連性の少なくとも半分は、健康的な行動によって変えられる可能性があります」と、シドニー大学医学健康学部の筆頭著者であるリンシャオ・チェン教授は述べています。

早期死亡リスクを減らすために

チェン教授は、健康的な行動をサポートし、オピオイド鎮痛剤の処方を停止することが「筋骨格系の慢性痛に関連する早期死亡リスクを減らすための重要な戦略である」と、示唆しています。

現在、痛みを伴うオーストラリア人の約20%が少なくとも1つのオピオイド鎮痛剤を処方されています。シドニー大学の理学療法士で痛みの専門家であるパウロ・ペレイラ教授によると、ほとんどの人が慢性的な痛みを管理するための最良の方法は鎮痛薬と休息であると信じていますが、この研究はその逆が真実であることを示唆しています。

Health Directによると、通常、神経は故障した部位から脳に信号を送ることによって問題が起こっていることを伝えます。脳はこれらの信号を「痛み」として読み取ります。しかし、慢性痛を抱えている場合、脳に痛みの信号を運ぶ神経、または脳自体が異常な働きをしてしまいます。神経が通常より過敏になり、脳が他の信号を痛みと誤解している可能性があります。

「我々は、筋骨格系の痛みによって寝たきりになるという思い込みと戦おうとしています。ほとんどの場合、一般人は知識不足のためにオピオイド鎮痛剤を処方され、間違ったケアのサイクルに入ってしまいます。すると、命に関わるリスクの確率が高くなります。」と、ペレイラ教授は述べます。

一般医にかかる場合、15分間ほどの診察時間内ではなかなか生活スタイルまで相談することはできず、鎮痛薬の処方やX線検査だけで済まされる可能性が高いでしょう。

確かに、休息と投薬は(例えば、はしごから落ちて背中を壊した場合など)急性の痛みや癌によって引き起こされた痛みには有効な治療法です。でも、オピオイド鎮痛剤は役に立たず慢性の痛みには「害を引き起こします」と、アデレード大学医学部のマーク・ハッチンソン教授は言います。

慢性痛とは?

慢性的な痛みは、身体や心と環境の間に相互作用を与える複雑な問題です。つまり、不安や恐怖、経済的、仕事、家族のストレスが痛みを悪化させる可能性があり、慢性的な痛みも心理的苦痛を悪化させる可能性があります。

では、どうしたら良いのでしょうか。「痛みの感覚的経験を感情的経験から分離できないことが分かっています。分離できないということは、つまり、あなたの心と体がつながっていることを意味します。ですから、生活の選択を間違えると心と体の経験に影響を及ぼします。」と、ハッチンソン教授は言います。理学療法士、作業療法、心理学者、カウンセラー、外科医、疼痛専門医、および一般医による治療のための学際的なアプローチがなければならないと彼は主張しています。

運動の必要性

「単純に、薬の処方を変えれば良いということではないのです」とハッチンソン教授は言います。彼は、痛みの解決のために国立センターまたは同盟が必要であると述べます。「まず、正しい身体活動が必要です。『運動の必要性』という医者からの処方箋…。そして、薬からの離脱かもしれません。さらに心理療法についても検討すべきです。ただ、それは脳の構造と体の反応を変えることですから、必ずしも気持ちの良いものではない可能性があります。運動は患者に機能改善の感覚を与えます。たとえ、わずかであっても機能の改善は非常に強い心理的効果をもたらします。」

シドニー大学のパウロ・フェレイラ教授も「痛みは人々の心に暗号化され、痛みの知覚を高めるため、患者がそのサイクルから抜け出すための小さな一歩を踏み出すことをサポートする認知行動療法が役立つ可能性があります」と、同意します。彼は次のように付け加えてます。「ほとんどの場合、エビデンスに基づく最も効果的な治療は運動です。これは、腰痛や変形性膝関節症(最も一般的な2つの筋骨格系の痛みの状態)にも当てはまります。」

「最良の種類の運動についてですが、あなたにとって最も簡単で楽しいものなら何でも結構です」と彼は言います。Get HealthyNSWなどの政府資金制度を通じて無料のプログラムにもアクセスできますし、理学療法士にかかればプログラムの作成を手助けしてくれます。

ハッチンソン教授は次のように述べています。「痛みは大きな問題です。痛みから逃れるためには、人に力を与えるために解決策を再考する必要があることを認めることです。痛みはただ消すための対象だけではなく、私たちが健康システムで直面している問題の中心です。」

〔※編集注:この記事は情報提供を目的としたものであり、医学的アドバイスではありません。個別のケースにつきましては医師にご相談ください。〕

引用元
https://www.theage.com.au/lifestyle/health-and-wellness/the-way-we-treat-pain-may-be-causing-us-harm-20211125-p59c4g.html

監修・まとめ

藤原 邦康
カイロプラクティック・オフィス オレア成城 院長
米国公認ドクター・オブ・カイロプラクティック
一般社団法人日本整顎協会 理事
カリフォルニア州立大学卒業
カリフォルニア州立大学(映画専攻)卒業後、CG映像の制作に携わった後、米国ライフウェスト・カイロプラクティック大学へ転進。2004年 米国ライフウェスト・カイロプラクティック・カレッジ卒業2006年 カイロプラクティック・オフィス「オレア成城」開院。2016年日本整顎協会設立。
顎関節症に苦しむアゴ難民の救済活動に尽力。噛み合わせと瞬発力の観点からJリーガーや五輪選手などプロアスリートのコンディショニングを行なっている。格闘家や芸能人のクライアントも多数。

【メディア取材】
「あさイチ」(NHK)、「とくダネ!」(フジテレビ)、「Tarzan」(マガジンハウス)、「からだにいいこと」(祥伝社)、「日刊SPA!」( 扶桑社)、「おはスタ」(テレビ東京)ほか

【執筆】
サライ(小学館)
「自分で治す!顎関節症」(洋泉社)Amazonベストセラー1位
「体の理を生かすカイロプラクティック」(科学新聞社)

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