
ニューヨークタイムズのケイト・マーフィー記者によると、歯ぎしりは手に負えなくなる可能性がある一方で有益な役割を果たす、人間にとって当たり前の習性です。
仕事上のトラブルでも冷蔵庫の故障でも、日常のストレス要因が何かあると、歯を食いしばりたくなることがあります。更に、感染拡大や経済の不確実性、政治的混乱が重なると120kgを超える力をアゴにかけて歯ぎしりするという悪い習性が起きる可能性があります。
感染拡大が始まって以来、歯根破折の患者の増加が歯科医によって報告されています。歯根破折の原因は、クレンチング、グリッティング、グラインディングなどのブラキシズム(歯ぎしりの専門用語)が原因であると考えられています。
歯ぎしりはストレスや不安によって引き起こされたり悪化したりすると考えられています。ほとんどの場合は無意識で睡眠中によく起こります。ほとんどの人は、歯の摩耗を歯科医から指摘されない限り、自分が歯ぎしりをしていることに気づきません。ただ、耳のかゆみや詰まり、首の痛み、さらには顔の早期老化などいくつかの兆候はあります。
予防策としては、一般的にアクリルまたはゴム製のバイトガード(通常「ナイトガード」と呼ばれています)が処方されます。
ナイトガードは歯の磨耗を防ぐのにある程度役立ちます。しかし、いくつかの研究によるとナイトガードが効果がないか、または問題を悪化させる可能性があることを示唆しています。ですから、歯科、神経科学、心理学、整形外科の分野の専門家は、歯ぎしりの原因と治療の理解にパラダイムシフトが必要であると述べています。専門家たちは歯ぎしりは決して障害ではなく、あくびやゲップ、くしゃみなどと同様、当たり前の人間の習性であると考えています。
歯ぎしりは異常ではない!
「歯ぎしりは異常ではありません」と、歯ぎしりの研究者でオランダのアムステルダム歯科アカデミックセンターの教授であるフランク・ロブズーは述べています。「実際、歯ぎしりはあなたにとってメリットがあるかもしれません。」
睡眠研究によって、大多数の人々が3回以上は歯ぎしりをしていることが判明しています。夜間のアゴの咬筋(主要な咀嚼筋)の活動は実は(旧来、夢を見ないと考えられていた)ノンレム睡眠中に起こります。ありがちな固定観念に反して、人は夢を見ている間は歯ぎしりをしていないのです。
咀嚼筋の活動は気道を開き、より多くの酸素を取り込むという有益な効果をもたらす可能性があるエビデンスも示されています。また、食いしばりやすり潰し運動は唾液腺を刺激して口の渇きを防ぎ胃酸を中和します。これらの理由から、睡眠時無呼吸や重度の胃食道逆流症(GERD)がある場合は、ナイトガードやスプリントを着用するのは危険であると専門家は述べています。
ニューヨーク大学歯学部の心理学者であるカレン・ラファエル教授は、歯ぎしりを防ぐためにバイトガード、精神安定剤、さらにはボトックス注射が広く使用されていることに言及し、「問題のない者にはとんでもない過剰治療です。」「歯に摩耗があるからといって(それがいつ起こったかは分からず)現在は必ずしも歯ぎしりをしているという証拠にはなりません。」と述べています。
彼女によると、歯の摩耗は実際のところ酸性の食事と関連していることが多いのです。エナメル質が侵食されると、歯ぎしりが起き唾液を分泌し口のpHを上昇させて中和します。この場合、歯ぎしりへの処置は原因の根本解決ではなく、あくまでも結果への対症療法であるといえます。
確かに、胃酸の過剰産生と逆流はストレス時によく発生します。感染拡大が始まって以来、歯根破折やアゴの痛みが歯科医や患者から多く報告されるようになった理由の説明としては正しいと言えるのではないでしょうか。
引用元
https://www.nwaonline.com/news/2021/feb/22/fixing-your-dailygrind/
編集者注:この記事は情報提供を目的としたものであり、医学的アドバイスではありません。頭痛が持続し消えない場合は医師にご相談ください。
監修・まとめ
藤原 邦康
カイロプラクティック・オフィス オレア成城 院長
米国公認ドクター・オブ・カイロプラクティック
一般社団法人日本整顎協会 理事
1970年静岡県浜松市生まれ
カリフォルニア州立大学卒業
カリフォルニア州立大学(映画専攻)卒業後、CG映像の制作に携わった後、米国ライフウェスト・カイロプラクティック大学へ転進。2004年 米国ライフウェスト・カイロプラクティック・カレッジ卒業2006年 カイロプラクティック・オフィス「オレア成城」開院。2016年日本整顎協会設立。
顎関節症に苦しむアゴ難民の救済活動に尽力。噛み合わせと瞬発力の観点からJリーガーや五輪選手などプロアスリートのコンディショニングを行なっている。格闘家や芸能人のクライアントも多数。
【メディア取材】
「あさイチ」(NHK)、「とくダネ!」(フジテレビ)、「Tarzan」(マガジンハウス)連載、「BIGtomorrow」(青春出版社)、「長目飛耳」 (日経BP)、「からだにいいこと」(祥伝社)、「日刊SPA!」( 扶桑社)、「世田谷の頼れるドクター 信頼できるお医者さんに出会える本」(田園都市ドットコム)「セラピスト」( BAB出版社)「仕事&資格を手に入れる本」(リクルート)、「おはスタ」(テレビ東京)ほか
【執筆】
サライ(小学館)
「自分で治す!顎関節症」(洋泉社)Amazonベストセラー1位
「体の理を生かすカイロプラクティック」(科学新聞社)